今年度2回目のリスクマネジメント研修会は、「法人内のリスクマネジメント事例」と、題して、4つの事業所からの発表となりました。
昭和43年に入所更生施設として開所された、入所定員80名、生活介護80名の成人入所施設。基本的生活習慣の獲得をベースに、生活スキルの向上、余暇活動の充実など個人のニーズに応じた支援を展開している。
「KYT(危険予知トレーニング)を通して」
KYTとは、産業界における労働災害防止活動から発展し、医療、福祉においても事故の予防、防止策として取り入れられている教育訓練手法。危険を察知する能力や感性を養い、職員一人ひとりの「気づき」や「意識」を高めるための教育、訓練手法である。効果としては、危険に気づく能力を養い、状況下から「何かおかしい」「危険かもしれない」という意識を持つ、予防する能力を高め、更に磨くことによって、未然に事故を予防できる期待がある。
玄関が職員用と利用者用に仕切られている構造であり、仕切りが障害物となり、物へ接触する、転倒する恐れがある。
〈改修後〉
※仕切りを取り払い、開放的な空間とした。床はL字型とし、壁側両サイドを利用者の下駄箱とロッカーとして配置。利用者の移動導線が直線となり、動きやすくなった。
台所、洗面所、脱衣場の床が、水はけが悪く滑って転倒する危険性が高く、乾燥していても滑りやすい床材である。誤って転倒した際、洗面台や台所のシンクにぶつかりけがをする。
〈改修後〉
※床材を変更してから、足を滑らせて転倒に至るケースが、約2割減少している。
KYT手法を取り入れて、職員間で協議、検討し合い、深め合うことで、新たな気づきや発見、振り返りから職員の声や意見を現場に反映させることができた。しかし、建物の改修のみでは、事故やヒヤリハットの状況は改善されていかない。同時に、支援する立場にある職員の意識の向上が最も重要であり、スキルアップなどを含めた人材育成についても、多角的な視点で働きかけながら、現場力、支援力の底上げを図っていきたい。
平成4年に授産施設として開設され、平成21年に障害者支援施設へと事業体系が移行し、6年が経過している。「利用者から学び、一人ひとりが必要としているサポートを考え、実行する」という、法人の理念を基とした施設目標「利用者個々人に即した地域生活を目指し、生活・日中活動支援を展開する」は、変わりありません。
・リスクマネジメントに関して
管理職、サービス管理責任者、各部署チーフで構成される、月に1度のチーフ会議の時に、リスクマネジメントに関する検討を行っています。
気づきメモについては、平成18年より、オリジナルの様式を用いて行わい、平成23年より、担当箇所以外の場所を見て、危険が潜んでいそうな箇所や不備などを、チェックすることを始めました。職員一人ひとりが、担当箇所以外の場所をチェックすることにより、他部署の細かな部分へ目を向ける機会ができ、チェックすることのみならず、良い箇所などを参考にしていくことも行われるようになりました。
・事故、ヒヤリハット報告について
作成された事故・ヒヤリハット報告書は、日々の引き継ぎ等で発生した部署や関係する担当者間で共有され、検討、検証を行い対策を図っています。
・事故、ヒヤリハット報告について
作成された事故・ヒヤリハット報告書は、日々の引き継ぎ等で発生した部署や関係する担当者間で共有され、検討、検証を行い対策を図っています。
浴室
ユニット入口
作業棟玄関前
・虐待防止委員会に関して
虐待防止に関しても、月に1度のチーフ会議の中で検討しています。主な議題は、施設内での研修についてですが、計画や内容等に関して検討を行い、全職員が虐待防止について意識を高めることが出来るような研修を企画しています。また、リスクマネジメント委員会で取り上げられている内容の報告や検討も行っています。
・研修について
職員会議の場で年間4回、研修会を行っています。研修の担当は、各部署に振り分けた形で計画しています。研修会で使用する資料は、各担当部署内で作成しますが、虐待防止委員会で内容の確認やアドバイス等をしています。
リスクマネジメントに関する取り組みを本格的に始めてから、約10年が経過しようとしています。取り組みを継続してきた結果、関係する書類の提出や検討は浸透しつつありますが、報告されている事故件数から考えると、ヒヤリハットの事例は、今以上に挙げられるはずであり、私たち支援者側の意識(気づく力、予測する力)を高めていく必要があると思います。
虐待防止委員会の取り組みに関しても、研修会の内容を検討することや資料を作成する行程を大切にし、今後も取り組みを継続していきたいと考えています。
平成17年、クッキーハウス分場から、10名定員で創設されている。当初は、ゆうあいプラザ移行利用者、近郊の在宅者などが利用していた。下請けを中心とした軽作業を主とした施設であった。
その後、平成21年に増員し、40名定員となる。重い障害や加齢傾向など多様なニーズを持つ方に対して、一人ひとりの特性に応じた過ごしやすさ、わかりやすさ、いきがいを見つけることをモットーに日々支援にあたっている。
・45歳の女性
・知的障害、幻覚、妄想
・自閉症の特性の類似がみられる
・他者との接触でトラブルが絶えず、暴言が出る。
・移動中は前だけを見て歩き、他の利用者とよくぶつかり、暴言が出る。
・変更をお願いしたり、作業中に話しかけると暴言が出る。
・職員や利用者への話が止まらず、介入すると暴言が出る。
・他者の行動に対し、暴言を言う。
背景や要因 | 支援と結果 |
・他の利用者が見えすぎる。 | → 物理的構造化。○ |
・自分のリズム、パターンを崩せない | → スケジュール、ワークシステムで、視覚的に調整。○ |
・変更が苦手 | → 変更のシステム。△ |
・話を終える、切り替えが出来ない | → お話の時間やルールを視覚的に伝える。△ |
・移動中周りが見えない | → グループ全体の動きを調整。△ |
・感情が抑えられない | → 自己コントロールのスキル。× |
・29歳の女性
・ダウン症
・先天性心内膜欠損症、肺高血圧症(毎日、酸素をしながら活動)
特徴
・明るい性格、会話やスキンシップを好む。
・友達の写真が好き。
・泣き出すことが多い。
・頑固な一面がある。
・歩行が不安定。
・年々体力が低下している。
特性
・人への興味、関心が強い。
・新たな事や周りの状況を敏感に感じ、恐怖感が強い。
・変化が苦手、ルーティンが強い。
・自己健康管理は困難。
・石川診療所での歩行リハビリを開始。
・肺高血圧症のため、常に手指に冷感がある。
・リハビリ中の酸素濃度は、60%台が続く。
・リハビリ開始から1ヶ月後、肺炎により入院。病院で酸素吸入の指示が出る。
背景や要因 | 支援と結果 |
・保護者の理解と後押しがない。 | → 測定機器の紹介で理解を。○ |
・必要性を理解出来ない | → 視覚的な説明の工夫。× |
・鼻への挿入感覚は嫌だ | → 感覚になれるよう、スモールステップで装着。○ |
・挿入を頑張れる励みがない | → 興味、関心のあるものを提供して、装着意欲を高める。○ |
・活動の流れが変化出来ない | → スケジュールの見直し。△ |
・利用者同士のトラブルが減った。
・他者を気にしすぎることが少なくなった。
・自立的に活動できている人が増えた。
・職員の介入が少なくなった。
・接触や衝突などでの転倒リスクが減った。
・活動を提供して、全体に穏やかで、けじめのある雰囲気に変わった。
様々な障害特性を持っている人達が、危険や不安を感じることなく、共存出来るようなグループ作りを目指していきたいと思います。
〜虐待防止チェックシート集計結果から見る保育現場の課題と問題解決〜
侑愛会の乳幼児部門である七重浜保育園、浜分保育園、当別保育園、ゆうあい幼稚園では、年に一度、職員の合同研修会を開催している。平成27年度には、リスクマネジメント委員会でも昨年から取り組みを行っている、虐待防止チェックシートを作成し、各園で職員に配布、回答を集計。職員を経験年数(新人3年未満、中堅3年以上、ベテラン10年以上)ごとに、9グループに分け、集計結果の分析、討議を行った。
一番多いのは、「〜しなさい」「ダメ」「早くして」など、制圧的な言葉を使うことがあるという項目。次いで、子どもの呼び捨て、子どものいない所での呼び捨て、「お化けが来るよ」「〜に言うよ」などの脅しの言葉を使うことがある。という、結果であった。いずれにしても、児童虐待の定義の「心理的虐待」の範囲と思われる行動が多くみられた。
新人グループ
・№1の子どもの呼び捨てについては、周りの状況などで日常化してしまうことがある。お互いに注意しあい、「くん」「ちゃん」付けの意識を共有していく。先輩が呼び捨てにしている時は、注意をしにくいこともあるので、呼び捨て禁止週間などの工夫をしていってはどうか。
・№4,5が全体的に高い。いつ、どんな時に脅しのことばや制圧的な言葉がでるのか。着替え、片づけ、昼食、通園バスの中。他の先生の名前を出したりすることがある。ベテランの先生の諭すような言い方や注意の仕方を学んで、自分のものにしていけたら、良い保育になる。
・№19の「子どもの好き嫌いで判断し、対応することが」は、各園すべてない0%という結果が出ている。当たり前の事ではあるが、大切なことなので意識をして継続していく。
中堅グループ
・各項目のパーセンテージが高い、№1の呼び捨てについては、愛情を持ってあだ名で呼び捨てをしてしまうケースが多い。
・№3の「〜部屋から出すことがある」は、クールダウンで出して、気持ちを切り替えることはあるが、1対1にはならず、第3者がいる所に限る。密室で子どもと職員2人になることを禁じている園もある。
・№7は、危険が伴うおそれがある場合等は、その場で叱ってしまう。
・№8は、自分のグループの中で、この項目に付けた人はいなかった。見つけたら「嫌がってますよ」と声をかける。上下に関係なく注意をする勇気を持つ。
・№12の食事について、一つでも食べるよう勧めるのは、虐待になるのか判断が難しい。
・№17は、必ず定位置で行い、見せびらかすような行為はしない。
ベテラングループ
・№1,2のパーセンテージが高い。ベテランの人は、保育経験が長いこともあり、呼び捨ては過去にあると思う。親密な感じで、呼び捨てすることはあり、気を付けてはいるが気が緩んでしまい持続できない事もある。意識し、気づいたときに声を掛け合い、年長者が良い見本になっていく。
・№4〜7の4項目に共通した言葉遣いについて話し合う。№4の脅しの言葉については、怖がらせるつもりはないが、集中してもらいたい時に使う事がある。興味を示す子もいるが、怖いと思っている子もいると思う。魅力ある保育士として引き出しをたくさん持つ。日頃からの関わりを大切にしていく。
・№5「〜しなさい」「ダメ」等の言葉かけについては、言葉の使い方を変えていく。
・№7,叱ると注意をするの違いを考える、一方的に言い聞かせるのではなく、気持ちを受け止め、納得がいくように話すよう心がける。保育士の影響力は大きく、子どもは言葉や態度は、そのまま吸収してしまうので、意識しなければならない。保育士の関わり方を改善したい。
これまで、児童虐待というと、家庭で虐待を受けている子どもや疑いのある子どもを、園で発見したらどう対応するかを考えてきた。しかし、家庭だけではなく、私たちの現場も同じく閉鎖的な部分があり、虐待と無関係とは言えない。特に、普段の何気ない子どもたちへの保育者としての関わりが、子どもの立場で判断すると、どうなのか考えることは、私たちの保育の質を向上する上でも重要なことと思う。
今回の学習会を通して、経験年数に関係なく、各園の職員の虐待と思われる不適切な行動への意識が高いことがわかった。どのグループからも、制圧的な言葉や脅しの表現に関しては、肯定的な表現に言葉を置き換えて伝えたり、保育者自身が気持ちに余裕を持つことが、そういった言動の防止につながる。また、職員が個々に虐待防止に努めるだけでなく、お互いの言動について、注意をしたり、声をかけたりできる職場の雰囲気や職員の上下関係などが、大切であるといった意見が聞かれた。今後も定期的に自分たちの行動を振り返り、見直しを継続していくことが、虐待防止につながっていくことと思う